第四章 悪魔祓い




 鞠乃をもっと近くに感じたかった。
 かといって、抱きしめる腕に力を込めれば、きっと壊してしまう。
 コンスタンティヌスは震える鞠乃の唇に触れ、貪るように吸う。
 鞠乃と己を隔てるもの、衣服や皮膚さえも押し退けてしまいたい。
 舌で鞠乃の唇を割り、戸惑うように逃げる鞠乃の舌を捕らえて絡ませる。
 髪、頬、咽喉に指先を這わす。遠慮がちに伸ばす手が、やがて胸のふくらみを包み込む。
「んっ……うん」
 小さな声を上げて、鞠乃がコンスタンティヌスの腕の中でもがく。
 その声があまりにかわいらしく思えて、コンスタンティヌスは唇を離し、今度は鞠乃の耳朶を柔らかく噛んだ。
 それだけで鞠乃は息を乱して身悶えした。
 胴衣の紐を解き、胸元をくつろげて押し下げる。
 下着を緩めるとまろやかな乳房がこぼれ、コンスタンティヌスの目を奪う。

 椀を伏せたような双のふくらみから目が離せない。
 日に当たったことのないそこはいっそう白く、まるで誘うように震えている。
「……どうして……」
 泣き顔のままで、鞠乃はコンスタンティヌスに訴えた。
 むき出しの胸のいただきが、その存在を誇張するようにたちあがっている。
 コンスタンティヌスは尖った薄紅色の先端にくちづけた。
 グミの実にも似たそれを強く吸い上げると、鞠乃の身体がびくびくと痙攣する。
 必死に押し殺そうとする声が、あえかに洩れた。





「神への奉仕は、悪魔の力を奪うこと……貴女の地獄の底へ悪魔を閉じ込めてください」
 真っ白な大腿、それに対して髪と同じ暗い色をした茂みの奥にある地獄の入り口を指でなぞりながら、コンスタンティヌスは囁く。
 鞠乃を祭壇に押さえつけたまま、なだめるようにくちづけを繰り返し、乳房からわき腹への愛撫を続ける。
 彼女の腰はなんと華奢なのだろう。こうして触れているだけで、壊してしまいそうだ。
 抵抗もできずに鞠乃が啜り泣く。
 その泣き顔の子供っぽさにコンスタンティヌスの劣情は暴走する。



 大きな眼から、新たな涙が伝って落ちる。
 わたしの心をつかんで放さないどこか夢をみるようなあどけなさを残す双眸。
 優しい声。
 甘い吐息。
 なんと、愛しいのだろうか。
 わたしは長い時間をかけて、鞠乃を手に入れるために奔走した。

 教区の神父から、鞠乃がラテン語を教わっていたと聞き、まずは彼女をヴァチカンの日本語放送課へ配属させた。
 ヴァチカン放送は短波放送で日本での受信が難しく聴取者が少なかったことと、財政的理由から2001年には終了していたが、インターネットからは発信を続けている。
 放送課の課長である知り合いの神父に持ちかけて、彼女をヴァチカンにうまく引き寄せたのだ。
 聖職者でありながら、これほどの我執に囚われるのは恐ろしいことであった。
 だが、鞠乃の面影はたえず、まなかいを揺曳する。
 これは神罰なのだろうか。
 神父はやがてわたしの企みに気づいたのか、鞠乃を日本に帰すと言ってきた。
 もうすぐ、鞠乃はこの手の間からすり抜けていく。

 見上げる黒い双眸は涙に濡れて、その意思の強さを表すように輝いている。
 貪るように、鞠乃の眸をふっくらとした頬を、甘い唇を見つめた。
 細い咽喉、白い胸。震える薄紅色の双の頂は、尖り自らを誇張するかのようだ。
 こうして見つめているだけで、彼女を穢している。
 すでにこの手はもはや取り返しのつかないところまで、鞠乃に触れてしまった。
 鞠乃はまるで羽毛の寝床のような安らぎを与えてくれる。
 彼女の善良さは、聖母のようだ。
 ラファエロ・サンツィオの描く聖母子像によく似ている。
 触れるのがためらわれるほど純粋でいて、その優しさは周囲の誰もに与えられる。柔らかく温かな彼女の手は……。
 ほかの誰かが鞠乃に触れるのを呪い殺してやりたいとさえ思い、眠れぬ日々に身もだえした。



 涙で濡れた鞠乃の頬に髪がまつわる。
 その髪に手をのばしかけたとき、勢いよく彼女は顔を上げた。
 その目には思いつめたような光があって、まっすぐにコンスタンティヌスを見つめる。
「どうか、あたしの中に悪魔を封じ込めてください」
 燃えるような黒い双眸。
 わたしはこの目に魅入られたのだ。
「どんなことになっても、……それでも……あたし」
 それだけ言うのが、精いっぱいだったのだろう。
 開きかけた唇は震え、言葉にならない。
 だが鞠乃の想いだけはコンスタンティヌスに伝わる。
 お人よしの聖母がその優しさだけで言ってくれるのではなく、もし、真実このわたしを愛してくれたのならば……。

 コンスタンティヌスは無言のままに鞠乃をかき抱いた。
 華奢な身体を抱きすくめると、まるで自分の心臓を抱いているような気がする。
 これこそ、己の命そのものなのだ。
 神が与えたもうひとつの己。
 かつてはひとつであった魂の半分。
 二度とこの手を放すことなど、できはしない。





「力を抜いて……わたしを信じて」
 囁くコンスタンティヌスの声に、鞠乃はこくこくと頷く。
 力を抜けと言われているにもかかわらず、かえって力が入って震えているのだ。
 彼女の上に覆いかぶさるようして、少しづつ腰を押しつけていく。
 鞠乃が唇をかんだ。
 痛むのだろう。
 彼女のつらそうな様子にコンスタンティヌスは腰を引こうとする。それを鞠乃はさえぎるようにさけんだ。
「お願い、……やめないで!!」
「鞠乃……」
 その言葉にコンスタンティヌスは後ろから鞠乃を抱きしめた。
 鞠乃の中は熱く、絡みつく圧迫感はただことでない。
 きつく固く閉ざされていた場所を押し分けていく。その感覚は、悦びよりも恐怖に近い。
 とても大切な者をこの手で、傷つけている。
「痛みますか?」
 コンスタンティヌスの問いかけに鞠乃は何度も、かぶりを振る。
 噛み締めた唇、溢れる涙。コンスタンティヌスの二の腕を掴む手に力がこもる。
「平気……」
 眉をしかめたまま、無理やりに鞠乃は微笑もうとしている。
 ぎこちなく口角を上げて、鞠乃が笑う。
 これほどに愛しいものを泣かせて、なおも欲しいと思う。

 破瓜の血が流れるほどに、蜜はしとどに垂れて突き入れると水音が高く響く。
 鞠乃の頬は紅潮し、汗が玉のように額に滲む。
 コンスタンティヌスは鞠乃の首筋に背後から舌を這わせる。
 なぜ、こんなにも鞠乃は己を惹きつけるのだろう。
 なおも愛しさがつのり、優しくしたいと思うのに、身体はいうことを聞かない。
 鞠乃は、こんな幼いばかりに華奢な身で必死に受け止めてくれている。
 その辛さは目じりに浮かぶ涙が証明しているのに。
 愛しい鞠乃の涙を見て、わたしは昂ぶっている。なんということか……それでもやめることなどできない。


「コ……コンスタンティ、ヌス……」
「大丈夫だ……鞠乃」
「……コンスタンティヌス先生、先生!!!」
 なんと愛しいのだろう。
 抱きしめる手にますます力が入る。
 信じられない。
 これほどに身も心も惹きつけられて捕らえられる……たとえ神であろうと渡しはしない。
 鞠乃を奪われたら、きっとわたしは正気を失うだろう。
 世界中のすべてを敵に回そうとも、背信の謗りを受けようともかまわない。
 もはや、天が墜ちてこようとも恐ろしくはなかった。



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