身の置き場がないというのか。
 いたたまれない気分……それ以上に罪悪感で落ち込んでしまう。
 アスタロトは、なおも唇と舌であたし自身を強く吸い上げるのを止めない。先端をしっかりと咥えこんだまま、指でゆったりと茎をしごきあげる。
 あの感覚はなんというのだろうか。
 目もくらむような絶頂へと誘導される。
 いけないと思いつつも、もはや自分の意思でどうにかなるものではなかった。
 心も身体も任せ切った大切な相手を穢してしまう。

 恥ずかしさと苛立ちと、それから悔しさとか、もうごっちゃごちゃになっている。
 自分でもどうしたらいいのか判らない。
 情けない惨めな気分に打ちのめされて、あたしは呻いた。
 もう、本当に死んでしまいたい……消えてなくなりたいほどの後悔。
 ちゅっと、音をたててアスタロトの唇が離れる。
 反対向きになっていた顔をこちらに向けて、アスタロトは唇の端だけをつり上げて笑った。
 わざわざ、あたしと視線を合わせてからアスタロトは、口の中のものを呑み込んだ。細い咽喉が動く。
 それを見たとたん、堰を切ったように涙があふれ出た。

「アスタロトの馬鹿ぁぁあぁあぅあぁぁっ! 飲んでくれなくったっていいのにっ!!!」



 我ながら勝手な言いぐさだとは思ったが、もうどうしようもないほど恥ずかしい。
 今すぐ首をくくりたいほどだ。
 敷布につっぷして、あたしは声をあげて泣いた。
 もう、初めての時でさえ、こんなに恥ずかしくはなかった。
 あのときは、酔っぱらった勢いもあったんだけど、今は違う。
 よりにもよって、なんでこんな身体になってしまったんだろう。
 たまらない自己嫌悪と、軽い疲労感。
「泣くでない。わしは、そなたのすべてを欲しておったのじゃ。むざと零せようか」
「ボケぇぇえっ!!!」
 泣きながらあたしは、叫んでいた。
「おたんこなす。ボケナス!!」
「これ。“おたんこなす”とは“おたんちん”の変形で、元は遊女が使っていた言葉じゃ。意味は短い男性生殖器でな。そなたの生殖器はなかなかに立派な……」
「なぁあああああっっ!!!!!」
 本気なのか冗談なのか判断のつかないアスタロトの答えにあたしは、脳内の血管が切れそうになった。
 手近にあった枕を放り出して投げつける。敷布を引きはがして丸めて放りだす。
 投げるものがなくなると、あらためてその場につっぷして泣いた。
 なんの因果でこんなことに……。



「泣くなと申すに……」
「これが泣かずにいられないわよ!! 朝起きたら、男になってたなんて……そんな馬鹿な話って……!!!」
「吐精すれば、元に戻ると思ったのじゃが……」
「どこのエロゲーだっ!!!」
 アスタロトの言うことなんか、本気にしたあたしが馬鹿だった。
 元に戻るどころか、恥ずかしいばっかりじゃないか。
「わしは、そなたが男でも女でも気にせぬぞ」
「あたしが気にするのよ!!!」
「何ゆえじゃ。このように愛らしい姿が気に入らぬか」
 そう言いながらアスタロトは、あたしの扁平な胸に撫で上げる。
 これが男の身体というものだろうか。
 普段なら、こんなことされたら、それだけで反応してしまうのに、妙に冷静な自分がいる。
 異常な興奮状態から醒めた直後だからかもしれない。あるいは、雄という生きものが、自然界で生き抜くために、ことが終わった瞬間から警戒モードに移行する本能だとかなんとかいう……あの感覚なのか。
 今は、ただ虚しいのと情けないので、もうイッパイイッパイだ。



「この男の格好のどこが愛らしいのよ……」
「男が愛らしいはずなかろう。羊子が愛らしいと言った」
 真面目くさった顔をしてアスタロトは言った。
 唇の端についた白いものを指先で拭って、それまで舐めた。
 ……舐めるな。頼むから、もうそんなモノはさっさと洗ってきてよ。
 鼻につくニオイ……青臭い草みたいな……自分のものだとしても気分が悪くなりそう。こんなものを飲ませるなんて……ますます自分のやらかした行為に泣きたくなる。
 立場が逆の時には、絶対してやらなかったのに……。

「早く口をすすいできて、うがいしろ!」
 申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、わざとらしく怒鳴ってしまう。
 怒鳴ると自分の男声にぞっとするほど、いやになる。
「なんという顔をしておるか。そなたのものなれば、いかな甘露よりもき味わいじゃ」
「味わうな!!!!!」
「何を恥らっておるのか。そなたとて、わしを愛しいと思うたのであろ?」
「……思ってないわよ。まったく一ミリグラムたりと思ってない!」
「嘘をつくな」
「嘘じゃないわよ。あんたが変なことするから、あんたが……!!!」
 涙声で言い返すあたしは、もう完全なオカマだ。
 反対に女のアスタロトのほうが、凛々しく見える。悔しくてまた、泣けてきた。

「わしが、そなたをごまかすと言うのか?」
 そう言って、アスタロトは頬に奇妙な微笑みを湛えた。
 人を誘い込むような胸騒ぎするような……。
 なぜだろう。
 アスタロトのあの微笑を見ると、なぜか負けたような気がする。
 何に対してなのかは判らないけど、なんだか、そんな気分になるのだ。

「愛している。羊子」
 アスタロトは、唇を舐めた。
 それを見た瞬間あたしは、再び下半身が疼くのを感じた。
 唇から覗く朱い舌が、まるで生き物のように蠢く。


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