「まだ泣いているのか?」
 耳もとで織部くんの低い声が囁かれる。
 息がかかって、ぞくぞくっと身体が震えてしまう。
「そんなに痛かったのか」
 見上げると困ったような、それとも心配しているのか。なんともいえない彼の顔がある。
 表情が変わらないのになぜ、そんなことが判るのだろう。
 でも、わたしには、感じられる。今の彼がわたしを気遣ってくれているのが、わたしの痛みを理解しようとしてくれているのが……。
「ち、違うの……もう痛くない」
 あわててわたしは言った。本当にお尻はもう痛くなかった。
 ぶたれたショックが大きすぎて、気分だけでものすごく痛いような感じがしただけだったみたい。
 弟さんにしていたことと、同じなの? 織部くんにそっちの趣味がないのは、よかったけど……それはそれで、ちょっと。

「そうか」
 織部くんは、ぺろっとわたしの頬を舐めた。涙の痕を舐めとるようにして、彼の舌と唇がわたしの顔をゆっくりと撫でるのだ。ビロードみたいな感触。
 くすぐったいのに、気持ちいい。
 わたしは、織部くんの膝の上でくすくす笑いながら、身体を縮みこませた。
 織部くんの唇は、頬から顎を伝って、首筋まで降りてくる。
 ざわざわっとした感じが背筋にきた。
 あれ?……と思っているうちに、ブラウスのボタンを一つずつ外された。
 え、まさか。こんなところで?
 でも、でも、織部くんがすごくあの……わたしに感じてくれているのも知っているから、抵抗できない……っていうより、したくない。
 頭の中で、どこか冷静な自分がいて「ダメ。場所を考えなさい!」と叫んでいるのに、聞こえないふりしてる悪魔なわたし。
 こんなときは、絶対に天使の言葉を聞くべきなのに、意志の弱いわたしは流されてしまう。
 そうやって流されっぱなしだから、路上でパンツまで脱がされちゃうんだ。

 心臓の音がただことではないほど激しい。身体の奥でものすごい勢いで脈打っている。
 ブラウスの前身ごろが開かれる。
 明るい照明の下で、白いキャミソールとブラが見えた。
 それを見た瞬間、わたしは頭からバケツの水をかけられたような気がした。
 よりによって、こんな時にこんな物をわたしは着ているんだろうか。
 光沢のあるサテンジョーゼットに小さな苺の模様がプリントされている。
 ピンクのリボンとフリルが、さらに子供っぽさを強調していた。
 勝負下着どころか、残念感が重く漂う。
 今日は織部くんに会うこともないと思っていたから着てしまったわけで……。いやいやいやいや!! 違う。 彼と会うことになっていたとしても、下着なんて見せちゃいけないんだってば。
 とにかく、この事態は想定外だ。
 通販で選んだ時には、ちょっとカワイイ系のつもりだったんだけど写真で見たよりも現物は幼すぎて、気の抜けた感じ。
 女としても終わってる。
 わたしは、あわてて見られまいとして胸元を隠した。
 っていうか、下着のことより、今の状況は危険すぎる。犯罪だ。
 学校の中で、この状況は……男子高校生を誘惑した女だ……やっぱりまずい。
 ほら、あれだ。えっと……不純異性交遊に、青少年保護育成条例か。
 確実に逮捕されるよ。
 それ以前に学校に潜り込んだことそのものが犯罪だ。
 恋は盲目っていうけど今のわたしは、確実に冷静な判断力が落ちてる。

「だ、だめだよ。織部くん……こんなとこじゃ……」
「今さら何が、だめだって?」
 胸を守るようにして隠していると、織部くんは口角だけをきゅっと上げて笑ってみせる。
 なんだか、黒い笑いだぞ? 織部くん。笑ってるのに目が怖い。
 そう思う間もなく肩に置かれた手に力がはいる。そのまま後ろに押し倒された。
 スプリングのきいたベッドの上だから痛くはないんだけど、ひたすら両手で胸を隠すのに専念していて他のところが無防備だったらしい。
 仰向けに倒れたはずみで、スカートの裾が捲れる。
 ブラとおそろいの苺プリントのショーツがストッキングごしに見えた。
 うわっ! よりによって!!
 あせってスカートを下ろそうとしたもののそれより早く織部くんの手がウエストにかかった。
「ひっ」
 喉から空気の漏れるような変な声が、自分の口から出た。
 だが、それどころじゃない。織部くんがストッキングと一緒にショーツを引き摺り下ろしたのだ。
「のぉあっ!!!!!」
 あわてて両手で下半身を隠そうとしたが、手首をつかんで持ち上げられる。
 え、ちょっと、ちょっと、何する気?
 抗議の声を上げるより前に、脱がされたブラウスで腕が縛られる。早い。
 妙に手際がいいよ。どういうこと?

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