「二度目の嘘だな。何度、この俺に嘘をいうつもりなんだ。お前……」
 もともと低い織部くんの声がさらに低くなった。
 うつ伏せの状態から後ろを振り返ると、うっすらと笑っているのに、目が笑ってない。
「ご、ご、ごごごめんなさい」
 哀しい習性なのか。考えるより先に謝ってしまっていた。
「一度だけなら、ともかく二度目は許せんな」
「最初っから許す気なんて……な、い……んじゃ……」
 嫌味で言い返すつもりだったが、織部くんの気迫に負けて語尾が消えそうになる。
「よく判っているじゃないか。では、お仕置きだ」
 何、それ。お仕置きって?
 この体勢で?
「う、嘘です。判ってません。だから許して!!」
「嘘も三度目なら、なお許せんな」
 織部くんの眼が、暗く光った。
 口角だけをきゅっとあげて笑っているのに、なんだか牙が見えるようだ。
 なんだ。これ。どこかで見た。
 デジャヴ――既視感ってのかな。
 映画の“マトリックス”ではデジャヴはコンピューターが作り出した仮想現実のエラーだとか言ってたな。いや、今はそんな場合じゃなくて……。
 でも、どっかで見たよ。この手の大型捕食動物って。

 あ、思い出した。
 シャチ。
 南極大陸において、最強の猛獣としての地位を確立しているシャチだ。
 時には人間さえも襲うという。ペンギンなんか一噛みだ。最近は、温暖化で海氷が激減してるからホッキョクグマでもヤバい。
 に、逃げなきゃ! 食い殺される。

 そう思ったものの、うつぶせにされた身体は、彼の膝の上でがっちりと押さえこまれている。不安定な状態のはずなのに、抜け出すこともできない。
 腰を腰を押さえらえているだけで、手足は自由なはずなのに。
 それでも手足を必死で動かすと、畳の上でクロールの練習をしているみたいな間抜けな姿になった。
 いくら、もがいても彼の膝から降りることもできない。
 この状態でお仕置きって言ったら……まさか。まさか?
 恐怖にわたしは震えあがっていた。
 突然、スカートがばさっと音とともに……足元から消えたというか、妙にすうすうする。
 え……嘘?! めくられた?
 織部くんがスカート、めくったの?
 嘘でしょ。嘘だよね。誰か嘘だと言って。
 恥ずかしいより何より、頭の中が真っ白になった。脳が現実逃避してる。

「大きな声を出すなよ」
 あせって振り返ると、織部くんが右手を振り上げるのが見えた。
 な、何する気?
 次の瞬間、痛いというより熱さが、じぃんとお尻にくる。
「はぇ……?」
 現実とも思えない事態に、わたしの意識は飛んでいきそうだ。
 パンツとストッキングなんて薄い布ではなんの防備にもならない。ものすごいショックだった。
 思わず、涙が込み上げてくる。
「な、なんでぇ……」
 その答えはなく、すぐに二発目が飛んできた。
 高い音が鳴って、それがまさか自分のお尻がぶたれた音だとは信じられない。

「やっ、やだ、やだよ。痛い、痛いって」
 わたしが泣いて訴えているのに、まったく手を止めようとはしない。
「……くぅ」
 悲鳴を上げる暇もない。三度目の破裂音がした後、痺れるような熱さと痛みがくる。
「ひっ……あ、あ……っ!」
 もう、訳が判らない。なぜ、こんなところでお尻をぶたれているのか。
 頭は混乱して、ただただ痛いばかりだった。
「お、おりべく……ん。もう……やめ……」
 彼の膝にしがみついて、必死に訴えた。恥ずかしいより痛い。
 また、彼の手がお尻に触れる。
 熱くなったお尻の皮膚を布越しに触れられて、痛みをともなう痒みのようなものをじんじんと感じていた。
 ザラザラとしたパンティストッキングとショーツの上から、彼の指がくる。
 お尻の割れ目の間をすうっと撫でられると、変な気分になってしまう。
 身体の中心が、きゅっと締め付けられるようで、切ない。
 お腹のあたりに当たる彼自身も硬くなってきている。織部くん、興奮しているんだ。

 ふいに彼の手が放れた。
 また、ぶたれる! そう思うと息が止まった。
 乾いた音がして、さっきと同じ場所が燃えるように熱くなる。痛い。
 ほんの少し前に感じていた甘い感覚は、もうなかった。
 ホントに痛い。
 涙腺が壊れたみたいに涙がどっと溢れてきた。
 痛いこともそうだけど、ぶたれた事実のほうが悲しくなる。

「ふえっ、えっぐ……えっ、えっぐぅ」
「痛いか」
「……う、ん……ぇぐずっ……ふぇ……っ」
「返事してるのか、洟をすすっているのか判らんな」
「痛いよぉおぉおっ!」
「そうか。痛いか」
 なんだろう。
 織部くんの声が嬉しそうな気がする。織部くんは、そっちの趣味があるんだろうか。
 わたしはムリだ。痛いばっかりで、変な扉が開いたりしないから。
 ノーマルなんだってば!!!
 ホントにこれ、辛いよ。

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