「煙草がないな」
 唐突に彼女の父親がそう言った。
「あ、買い置きなかったんだっけ。わたし買ってくる」
 優衣が腰軽く立ち上がろうとするのを、俺は押しとどめた。もう外は真っ暗なのだ。近くのコンビニに行くとしても危ない。
「俺が行きますよ」
「いや、構わんよ。どうしても今すぐ吸いたいわけじゃない」
 あわてて父親は言ったが、客の俺に気を使っているらしい。
「俺もちょっと外の風に当たりたいんですよ。帰ってきたら今度は負けませんから」
「それならわたしも一緒に行くわ。だって未成年に煙草を買わせるわけにはいかないでしょ?」
 優衣が姉さんぶった口ぶりで言うのがおかしくて俺は、笑いそうになるのをこらえた。
 俺たちが買い物に行ったら、年齢を疑われるのはたぶん優衣のほうだ。
 上着を取りに戻ってから優衣は、いそいそと玄関に向かった。
 その様子があまりに嬉しそうなので俺は、またしても笑いを必死で飲み込んだ。
「いつまでも落ち着きがない。子供みたいで恥ずかしい」
 父親は、そんなことを言っているが、その顔もどこかにやけている。
 素直でいつまでも子供みたいで……。
 こんな娘だったら、嫁に出したくはないだろうな。
 娘の料理を貶すのも俺への牽制だと思うのは、考え過ぎなのだろうか。





 まるでスキップでもしそうな勢いで優衣は、薄いカーディガンを羽織って外に出る。
 散歩に出るのが嬉しい仔犬みたいだ。
 職場で見ていると、回し車の中を走るハムスターみたいに忙しそうにしているが、今はまるでチワワだ。
 首輪とリードでつないでやろうか。
 俺たちのことを、隠しているつもりらしいがそんな嬉しそうな顔をしていたら、完全にばれているだろう。
 もっとも、知られたならば、それで一向に構わない。
 父親のほうはいざとなると判らないが、母親には気に入られている自信はある。
 これでも優衣より落ち着いているはずだ。普段から歳よりずっと老けて見られるから、けっしてつりあいが取れないわけではないだろう。
 玄関のドアを閉めたとたん俺は、彼女を抱き寄せた。
 びくっと、優衣の肩が震える。
 こんなに反応されると、自分がいたいけな少女を誑かす変質者のような気がしてきた。
 どっちが年上なんだか判らない。この現場を抑えられたら逮捕されるのはやっぱり俺のほうだろう。
 夜の闇で顔が見えないことをいいことに、たぶん俺はにやけていたに違いない。
 細い肩を抱いたまま俺は歩きだした。
 俺の歩調に合わせようとして、彼女があわてている。
 そんな様子さえも可愛いのでわざと知らん顔を決め込んでやると優衣は、俺にすがりつくようにもたれてきた。
 彼女がぴったりと寄り添うと胸の膨らみが当たる。
 なかなか大胆じゃないか。
 いや、こいつは気がついてないかもしれない。たぶん、そうだ。
 じらすとか、こちらの出かたを見るとか、そんな戦略を練るような女ではない。
 玄関を出てから数メートルも歩いていないのに、完全に俺は、彼女に翻弄されていた。
“年齢=彼女いない歴の男”だから、こういうこともあるのだろうか。

「もっとゆっくり歩いてよ」
 ちょっと甘えるようなそんな舌ッ足らずな物言い。
 他では決して見せない彼女の別の顔。
「悪かったな」
 俺は、肩に置いた手を滑らせ腰を抱く。
 それだけで優衣は身体を震わせた。これぐらいでいちいち反応するな。敏感すぎるだろう。
 俺が一方的に腰を抱いているから、逃げようにも彼女は逃げられない。



 できるだけ早足で家から離れる。
 コンビニまでは、そうたいした距離ではない。住宅街なので人通りもほとんどなかった。
 家々の玄関灯と、外灯だけが道を照らしている。
 夜道が怖いのだろうか。優衣は、抱き寄せられたまま俺のシャツを強くつかんだ。
 彼女の髪からはシャンプーの匂いがする。
 微かな甘い香りだ。
 いきなり立ち止まると、彼女はその場でつんのめった。
 足元がおぼつかない優衣の身体を支えるようにして、腕をつかんで引き寄せる。
「……あ」
 優衣のかすかな声に煽られて俺は、そのまま強引にくちづけした。
 軽いキスのつもりが、理性の箍は完全に外れてしまったらしい。
 外気の冷たさに冷え切ってしまった唇が、ふっくらとしていかにも旨そうだったからか。
 俺は、貪るように彼女の唇を奪った。
 突然のことで驚いたのか、優衣は逃れようともがく。
 唇を離してやると、もとから大きな眼をいっそう見開いている。
 文句を言いたいのか口をパクパクさせているが、言葉にはならない。
「なんだ。もっと欲しかったのか」
 意地悪く言ってやると、夜目でも判るほど真っ赤になって首を横に振る。
 そのしぐさが、やけに子供っぽく見えて俺は、また笑ってしまう。
 笑いと性欲はまったく別のところにあるはずなのに、優衣に関してだけは違うらしい。
 俺は彼女の顎をつまみ上げる。

「ば、場所を考えてよ。もう……やっ、やだ」
 顔を背けようとするが、足もとがおぼつかない。腕をつかまれて爪先立っている。
 大して力を入れているわけではないから、逃げようと思えばできるはずなのに、そうしないのは俺を受け入れてくれるつもりなのか。
 あるいは、彼女の優しさなのか。
 わざとらしく眉をしかめて、怒ったふうな顔をしてみせる。もとより童顔だから、むしろよけいに幼く見えた。
 面白いから、もうちょっとからかってやりたい。早く煙草を買って帰らないといけないのだが。
「いや……か。俺が」
 耳もとに近づいただけで優衣は、夜目でも判るほど顔を赤くした。
「ち、違っ。違うってば……いやじゃないよ。本当よ」
 すぐに騙されるな。こいつ。
 それなら、彼女の優しさにつけ入れさせてもらおうか。

 もう一度くちづけた。
 優しくしてやろう。
 そう思ったのも確かだったが、いざとなるとできない。
 必死で閉じる唇をこじ開けて舌を差し入れる。
 逃げる小さな舌を捕らえて絡ませ強く吸うと、彼女は湿った吐息を漏らす。
 下唇を噛んだり、咥内を舐めてやったりすると、たまらない声を出す。
 キスだけで簡単に堕ちそうだ。
 唇を離すと銀色の糸が伝う。
 優衣は、まだぼうっとしている。
 それをいいことに、彼女の胸の膨らみをつかんだ。
 思ったよりでかい。俺の手にあまるほどだ。
 そのわりに感度はいい。服の上から触っているだけなのに、今にも泣き出しそうな顔をして震えている。
 この下から、すくい上げるような上目遣いがなんともいえない。
 そそられるとでも、いうのだろうか。
 ますます苛めたくなる。
 調子にのって俺は、襟の間から手をつっこんでやった。
 これには、優衣も怒った。
 怒ったといっても顔は赤らんで涙目になっているのだから、少しも迫力がない。
 むしろ挑発するようなものだ。



「俺にこうされたかったんだろ」
 エロ爺のようなセリフを耳もとで囁きながら吐息を吹き込んでやる。
 優衣は、敏感にぶるっと身体を震わせた。
 こいつ……耳が弱いな。
 襟もとから差し入れた右手で、膨らみを直につかむ。
 あたたかい肌の感触。手に吸い付きそうなほど、もっちりとした柔らかさ。
 それでいて張り詰めたような弾力がある。
 中央で小さな突起を見つけた。
 強くこすってやると、優衣は鋭い声をあげた。
 痛かったのか。
 敏感な部分だから、ちょっとした刺激にも弱いのだろう。
 あわてて手を引っ込めかけると、今度は優衣がすがるような眼でこちらを見る。
 丸い小さなそれは、硬く尖って俺の手の中で存在を主張する。
 転がすように指先でつまんでやると、いっそう震えが大きくなった。
「んっ……あ」
 抑えきれない自分の声が恥ずかしかったのか、優衣はうつむいた。
 だが、嫌がっている様子はない。
「俺の石になりたかったんだろう」
「そ、そんなこと……言ってない」
「俺がお前の言うことを聞き逃すと思うか。聴覚は2.0だ」
「それ視力……やっん、ん!」
 すぐに言い返してくるのを封じ込めるつもりで、乳首を強めにねじ込んでやる。
 甘い声が洩れる。いやだっていうのは口先だけのようだ。
 抵抗がいっそう弱くなってきている。
 潤んだ眼から、涙が零れた。それでも気強く俺を睨んでくる。
 可愛いじゃないか。
 やばいぞ、俺。公道の真ん中で優衣を押し倒しそうだ。
 少しは冷静になれ。
 ちょっと優衣をからかってやるつもりが、本気で危ないことになりそうだ。
 落ち着け。とにかく落ち着くんだ。
 道の真ん中で発情してどうする。
 動物か。俺……。

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