「顔だけ見てたら昔と少しも変わらないのに、身体だけはやらしいんだよな。乳首もクリもビンビンじゃないか」
 意地悪く迦陵が囁くのが、いまいましい。
 なんだ。それは、いわゆる言葉責めか?
 下品すぎる。
 どっかのエロゲーの受け売りなのか?
 腰が、大腿が自分の意思とは、関係なくがくがくと震えた。
「俺の指、ふやけそうだよ……すごい。濡れ方だな」
 迦陵は、嬉しそうに言う。
 それも単なる自己防衛によるものだ。
 無理に広げられて擦られれば、中を傷つけないように濡れもする。
 この馬鹿。阿呆。変態が。死ね!
 心の中で罵っていたが、いきなり脳天まで響くような刺激がくる。
 人差し指と親指で挟みこむようにして剥き出した肉芽に爪を立てられた。
 イリアと同じ責め方に背筋がのけぞり、声が出ない。
 滴りそうなほどに溢れる粘液を、指に絡ませながら、膨らんで露出した肉芽をつぶされる。
「ひゃうっ……!」
 強すぎる刺激に、痙攣するみたいに身体がびくびくと跳ねあがった。
 この異様な状況に全身が、過剰なまでに敏感になっている。
「ここ……かなり赤くなってるけど、自分でしたの?」
 笑いを含んだ声で言われて、恥ずかしさと悔しさに頭の中が煮えそうになる。
「それじゃ、誰に弄りたおされたのかな……以前より、ちょっと大きくなってる」
「ひっ、ひぅ……!」
 呼吸がおかしくなっている。
 全身が痙攣しているみたいだ。快楽ではない。心と体が悲鳴を上げている。
「いや、より敏感になったってことかな。可愛いよ」
 夢中で首を横に振る。そうすることによって少しでも、恐怖を紛らわしているのかもしれない。



「やだ……いやだってば、止めっ!!」
 のけぞって叫びかけた口に、後ろから手が回って押さえつけられる。
「どうせ誰も来ないとは思うけど、ご近所迷惑になっちゃいけないだろ」
 迦陵の言葉に冷水をかけられたような気がした。
 こんなところ他人や親に見られでもしたら……。杏珠は、大きな男の手で押え込まれたまま唇を噛んだ。
 助けが来ることを望んでいたのに、今となってはそれさえも怖い。
 耳朶を齧られた。ぬるっと舌先が耳の中へ入り込む。
「く……んっ」
 ぞくっと背筋から産毛が逆立つようだ。
「杏珠ちゃん……可愛い……俺の杏珠」
 耳を舐められ、歯を当てられる。杏珠は、ぞっとして身体を振るわせる。
 快感などでは、ない。
 ただ気持ちが悪いだけだ。まるでナメクジが這いまわるようだ。喉もとまでせりあがってくる吐き気。嫌悪感しかない。
 その反応を誤解したらしい。迦陵は、口を押さえこんでいた手をわずかにずらせた。
 口での呼吸を杏珠は、せわしなく繰り返す。
 悲鳴をあげようにも声が喉に張りついたように、今は荒い呼吸しかできない。

「大丈夫だよ。杏珠の大事なものを壊しちゃったりしない。安心してまかせていればいいよ。気持ちよくしてあげるから」
 大事なものなら、とっくに壊してる!
 叫びたかったのに、そんな言葉さえ出てこない。

 誰か、助けて。お母さんっ、帰ってきてよ!!
 イリア!
 イリア、助けてよ。
 あたしがあなたの子だっていうなら、来てよ。
 ほとんどやけくそみたいな気分で、イリアの名前を思い浮かべる。
 いくらその名を呼んだところで、彼は来ないのは判っていた。
 それくらいの判断力は残っている。
 彼は、王子様ではない。
 うかつに他の男の名前を口にして迦陵が逆上したら……。
 悔しさと情けなさ。弟だと思うからこそ、いっそう惨めで恥ずかしかった。
 さまざまな感情がないまぜになって、涙がボロボロ零れてくる。
 落ち着かなければいけない。
 必死で自分自身をなだめる。

「お願い……こ、怖いの。……手……放して」
 情けないが、媚びるより仕方がない。
 相手が自分より力がある以上、どうしようもなかった。
「放したら逃げるだろう。杏珠の考えなんてすぐ判るよ」
「に、逃げないから……」
 いつもの迦陵の穏やかな声ではない。いつの間にか呼び捨てになっている。もう姉弟という関係は、どうしようもないのだろうか。
 後ろから押しつけられる固いモノが怖い。
 その先端からぬるぬるしたものが溢れて尻の谷間へ擦りつけられる。ほとんど凶器だ。
 まさか、本当にこのまま……。さらに最悪の事態を想像すると、喚き出したい気がした。
 ここで迦陵を完全に怒らせてしまったら、力づくで奪われてしまう。
“可愛い”だの“俺の杏珠”だのと、勝手な自己陶酔に浸っている間に、うまくかわすことができたら……この場だけでも逃げ切れたら後はどうとでもなる。
 まだ迷いがあった。
 女としての尊厳も矜持も、奪われようとしていながら、この期に及んで残された希望を探してしまう。



「しょうがないな」
 締め上げる腕が緩んだ。逃げようとしたが、腰をつかまれてそのまま持ち上げられる。
 足が床から離れた。
「う、うわっ!」
「色気のない声」
 抱き上げらえて湯船に放り込まれる。
 いきなりのことで、頭から湯の中に沈んだ。
 隠すこともできないで、思いっきり両足を伸ばした状態で杏珠はもがいた。迦陵に支えられてようやく起き上がる。
 鼻からも口からも湯が入った。鼻腔と喉が痛い。
 危うく自分のうちの風呂で溺れそうになった。



 咳き込んでむせていると、目の前にウサギのキャラクターのついたカップに入った水が差し出されている。
 洗面所に置いているプラスチックのカップ。杏珠が使っていたのを、いつの間にか、衣蕗のものになっていた。
 顔を上げると、浴槽のそばで腰をかがめた衣蕗がいた。
 眠たそうな目をして、黙ってこちらを見ている。いつからそこにいたんだろう。
「あ、……あ、衣蕗……?」
 迦陵と鉢合わせになったときより、さらに驚愕した。
 心臓がぎゅっと縮んだような気がする。

「杏珠ちゃん。すごいことになってるぅ……」
 衣蕗は、いつもゆっくりと間延びしたしゃべり方をする。
 今のこの状況にあって、その口調は異様にも思えた。
 まるで、白痴のようだ。
 手を伸ばして、杏珠の胸に散った花弁のような鬱血の痕に触れる。
 バスタブには、迦陵も一緒にいるのだ。兄と姉が全裸で風呂場にいることに、驚きもしなければ騒ぎもしない。
 妹の姿を見ても、助かったという気にはなれなかった。
 今まで、ずっと見ていたのだ。
 姉が弄られる姿を……。



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