それらは、四肢を束縛し肌の上をはい回った。
 うなじを伝い、髪や首に絡む。首から喉、顎を撫でるようにして、唇まで伸びる。
「んんんっ!」
 唇を割ろうとする細い生き物に、杏珠は唇をかみしめて侵入を防ごうとする。
 その間にも、かばいきれない耳の裏や孔を金の糸はまつわりつく。
 ぞわぞわと背中を這う感触。
 それがなんであるか、理解できないだけに恐怖が高まる。塗りたくられた腐った膿よりもはるかにおぞましくも気味が悪いものだった。
 あれはイリアの掌の冷たさがあったから、イリアのものだから耐えられたのだ。
 張りつめた乳房を搾り上げるように触手が巻きつく。
 薄い腹や臍。閉じようと力を込める大腿を押し広げた。その奥は散々イリアに嬲られた場所で、きっと傷になっている。この上、あんな生き物に入り込まれたら死んでしまう。
「いや、……やだっ……こんなの。イリアじゃなきゃ!」
「これも俺だ。欲しいと言ったのはお前だろう」
「……やめ……やめてぇっ……ぅぐっ!」
 声をあげる杏珠の口の中に糸のような触手が入り込んでくる。
 唇にまとわりながら、舌さえも犯すかのように絡みつく。
 淫らに蠢く触手は、首からうなじを這う。細い繊毛にも似た触手が束になり、まるで長虫のようだ。
 手を、足を、糸のような得体の知れぬものに縛られ、髪を振り乱してのけぞった。
「これほど淫らに腰を動かおきながら、何を言う。まったくお前は素直ではないな」
「やらぁ、……ひぅ……!」
 触手が巻きつき、くびだされた乳首は、強弱をつけて締め上げられる。
 甘い疼きがそこを中心にして広がっていく。
 今までに感じたことのない刺激だった。
 背筋に回ってきた触手に撫で上げられ、びくびくと上体が反り返る。
「ふっく……はぅ……!」
 大きな渦に呑み込まれるような息苦しさ。一瞬、頭の奥が白くなった。

「なんだ。今度は胸だけでいったのか」
 身体が弛緩したまま動けない。
 高みに昇りつめた後のけだるさと余韻に浸る間もなく触手たちの愛撫が始まる。
 立て続けに追い詰められる苦しさに、息も絶え絶えになりそうだ。
「さて、これで何度目になるのか。淫乱と言うにも余りあるぞ」
 冷たいイリアの声。残酷な言葉。
「淫らな……いやらしい子だ」

 にゅちゅっと粘ついた音をたてて、不気味なイキモノが杏珠の強張る大腿から鼠蹊部を這い、さらにその奥へと侵入する。
 淫唇を寛げるようにして中を開かれていく。
 肉襞を広げられ奥の奥まで晒されたあげく、すでにさんざん嬲られて固く勃ちあがった淫核に細い糸のような触手が絡みつく。こね回され振動が与えられる。
「くぅ……あぁっ、あぁっ!……やめっ……はあぁっ!」
 神経の密集した場所を嬲られる。熱く蕩けきった膣壁を多くの繊毛が撫で擦りながら、奥へとまさぐっていく。
 弄ばれる身体の内側。内臓から焼き尽くされてしまいそうなおぞましさ。
「も……ぉ……いや……あぁっ……あぅ!」
 無数の細い糸に蹂躙され、執拗な愛撫に杏珠は泣きむせんだ。

 屈辱と恐怖。
 この奇怪な触手に辱められる行為が、イリアを受け入れることになるのだろうか。
 真実これがイリアのものならば、耐えなければならないのか。得体の知れないものに陵辱され、快感を強要される。
 杏珠の頭は混乱し、ともすれば意識が飛んでしまいそうだ。
 このまま流されてしまえば、取り返しのつかないことになってしまう。





「……ひっ……ひあぁっ……あぁっ!」
 身体の内側から、じりじりと焦がされるような熱さを感じながら、どこか遠くで鳥の羽ばたきを聞いた。
 見えない巨大な鳥が翼を広げている。
 その音はだんだん気忙しく間近になってきた。
 怪鳥の啼き声が響く。
 いや、違う。これは、高い女の笑い声だ。
 金属的な、耳を聾するばかりの……。
 身体の中心を抉られる苦痛。息苦しさ。饐えた臭い。
 考えることさえ億劫になりそうな中で、女の甲高い笑い声だけがやけに耳に響く。
 止めて。
 イリアの声が、規則正しい息づかいさえも聞こえなくなってしまう。
 お願いだから邪魔しないで。
 どんなに恐ろしくても、いまここにイリアがいてくれることが判る。
 それだけでいい。イリアさえいてくれたら……。



 怯える杏珠に、イリアはようやくくちづけをくれた。
 そうっと唇を重ねられるだけで、それまでの恐怖が薄らぐ。
 こんなときなのに、ついばむように優しいくちづけをする。
 冷たい唇。触れ合う指先。
 夢中でイリアへ手を伸ばした。その身体を抱きしめようと。
 伸ばした手は虚しく空をつかむだけだ。
 身体を起こそうとするが、痺れたように動けなかった。
 目を見開いた。
 イリアの名前を呼ぼうとしたが、喉が嗄れて声がでない。

 杏珠は、自分の中に亀裂が入っていくのを感じた。
 粉々に破壊され、崩れていく自分をかばうこともできない。
 呼吸が止まる。
 このまま心臓さえ止まってしまえばいい。
 そうすれば、この苦しみから救われる。



 もう、優しくしてほしいなんて願わない。
 そばにいて。
 どこにも行かないで……!





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