「ならば、暴れるのではないぞ」
 耳もとで囁くように、イリアが言った。その声音の低さが杏珠を絡めとるようだ。
 イリアは、杏珠を膝の上にのせたままストッキングを引き裂く。ショーツのクロッチをこじ開けた。
 散々焦らされて、潤みきった奥へ長い指が潜る。
「ひぅっ……!」
 突き抜けるような快感に、身体が小刻みに震える。
 杏珠の身体が、イリアの膝の上で跳ねた。
 涙にくぐもった嬌声が聞こえる。
 それが自分の声だと気づいた瞬間、血の気が引くほど恥ずかしくなった。
 指が動かされる。
 最初はゆっくり、そして強弱をつけるようにして深く浅くと繰り返す。たったそれだけの刺激に杏珠は、イリアの手に踊らされ何も見えない。
 卑猥な水音が室内で響く。
「い、い……や、いやぁあぁっ……もぉ……やだぁ!」
 羞恥と快楽のない交ぜになった状態で杏珠は、泣き叫んでいた。
 その手によってもたらされる愉悦は、どこまでも果てがない。



「いやではないだろう。仕方のないやつだ」
 イリアの声は、いつもと変わらず穏やかだった。
 これほどまでに翻弄される杏珠と違ってひどく冷静で、そのことが杏珠をいっそう打ちのめす。
 どこか高みから見下ろされているようだった。
 弄られている。そんな被虐的な想いがいっそう、杏珠を昂ぶらせている。

「だめ……!」
 ストッキングごとショーツをひきずり下ろされ、身を捩ってもがくがイリアは、難なく杏珠の抵抗を封じてしまう。
「どうした。お前の望むようにしているだけだぞ」
 閉じようとする膝を押さえつけ、ぬめる花芯に指を差し入れて下から上になぞる。
 くちゅくちゅという淫靡な音が響く。間違いなく自分の奥から溢れたものだ。
 まるで杏珠自身に見せ付けるようにイリアは、限界まで杏珠の両膝を割り開く。
 スカートは完全にまくりあがって用をなさない。
 胸元がはだけられて、双の乳房は下着からこぼれている。
 現実にはありえない状況。
 病院の青白い照明の下で、もっとも隠したい部分だけを露出され医師の膝の上に乗せられた自分がいる。
 なぜ、こんなことになってしまうのだろう。
 あまりの恥ずかしさに杏珠は泣きじゃくった。

「いつまでも父と呼ばせていたのが、まずかったのか。いつまでも子供だな」
「そんなの……あたし、やぁ……ぁんっ……ん」
 子供に小用をさせるように大きく脚を開かれ、いやらしくひくつく秘所を晒されている。
 イリアの視姦が、杏珠をいっそう昂ぶらせているのだ。
 自身でそのことに、気づきながらも認めたくはない。
 秘裂に侵入した指は、わざと水音を立てて襞を擦ってくる。
 その音を聞くたびに、杏珠は身体の芯が痺れるような熱を感じた。
「だが、これは子供の身体ではないな」
「あぁっ……いやっ……見ないでぇっ……」
 イリアの愛撫で濡れ光った性器が剥き出しになり、節くれだった指先が襞を割り広げる。
 秘裂の奥がひくひくと蠢き、とろりと新たな愛液を垂れ流す。
 杏珠は、身もだえして泣いた。
「見るがいい。お前のここは充血して膨らんでいる」
 イリアは、剥き出しにされた肉芽をぎゅっと抓んできた。
 指の腹でこねまわされ、愛液をまぶす。
「っひ……んん……あぁ……ぅふ……ぁぁん!」
 意に反して嬌声が、杏珠の喉から溢れて止められない。
 激しい歓喜が身体を突き抜けてほとばしる。
 快感を強要され、恥辱と陶酔の波に翻弄され悶えるしかない。
 恐怖を感じるほどの悦楽だった。



「やはり、お前はかわらぬな」
 からかうような、それでいながら、どこか甘い響きをもってイリアは杏珠の耳もとで囁く。
 そのまま唇を塞がれる。貪るようにくちづけられて息苦しさに口を開くと、イリアの舌が侵入した。
 痛いほど舌を絡められ口腔を蹂躙されていると、もはや思考が働かなくなってくるようだ。
 その間もイリアの愛撫はやむことがなく、杏珠の肢体は快楽をもたらす刺激に敏感に反応する。
 脈打つように体中に広がる熱情と官能の中、何も考えることなどできない。

「素直でないのも昔と同じか」
 眼も眩む羞恥の中で、泣きながら杏珠は夢中で首を振る。
「……ち、違う。あた、しは……」
 悲しさと悔しさで、いっそう涙がこみ上げてくる。
 こんな状況で泣きたくなかった。
 快楽に引きずられて、ありえないほど恥ずかしい今の自分の惨めな姿を思い出して、必死で歯を食いしばる。
 胸の底に鈍い痛みが疼く。
 このまま、甘えきって泣いてしまいたいという誘惑が、心の中でせめぎあっていた。
 イタリアの空港で別れてからも……いや、出逢ってすぐに惹かれていたのに、認めることができなかった。
 あまりにも彼の存在が強烈で現実離れしすぎていたせいか。
 まるで夢の中のことようだった。

「あたしは、イリアの……」
 そう言った時、堰を切った。
 抑えつけていた想いがなだれ落ちて、呑み込まれる。
 自分でも止めようがなかった。
 玩具のように弄ばれて、しゃくりあげて泣いている。
 それも自分ではない。
 彼の愛している誰かと、あたしは違うのだ。
 あまりにも情けなさ過ぎる。
「……な、なんでぇ……うっく……」
 心臓をぎゅっとわしづかみにされるような辛さを感じていた。
 最低の男だ。
 以前の自分なら、きっと怒りに任せて目の前の男を張り飛ばしていたはずだ。
 それが今となっては、そんなことなどできそうもないほど惑乱していた。
 もはや完全に心の均衡は破れていた。

 どうしてこんな状況に陥ったのか。
 イリアだ。
 彼のせいだ。
 普通ではない。あきらかに異常な状態の中で、絡みとられ追い詰められている。
 まるで呪縛されているようだ。
 焼き鏝をおしつけられるような感覚が胸のうちに疼いた。
 美しい顔立ちや切れ上がったきつい隻眼。鮮烈な赤い虹彩がとりまく眸は恐ろしいほど暗い。
 だが、そんなものだけに惑わされたわけではない。
 もっと、奥。心のずっと奥深くに彼という存在がある。
 呑み込まれて、彼の細胞の一部になったかのようだ。
 もはや、自分自身ですらない。
 イリアとかかわった瞬間から、二度ともとの自分には戻れなくなる。
 普通の日常には戻れない。もはや取り返しはつかない。
 彼と逢うまでに守ってきたありふれた日々。それらすべてが覆されてしまった。
 うつつと夢が、まるで手袋をひっくり返すように逆転する。



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