人間は羞恥で死ねる。
 ってか、今すぐ死にたい。
 いや、ちょっと待て。やっぱりこの姿のままで死にたくない。
 素っ裸でエビ固めって、どんな死に方だ。

 切羽詰まった杏珠に対して、神父の方は冷静そのものだった。その温度差が悔しい。
 紅い眸は宝玉のように奇麗だ。そのくせひどく酷薄そうに切れ上がった左の眼が、杏珠を射すくめるように見つめる。
 奇妙な気圧される恐怖を懸命に跳ね返そうとしながら、必死に怒鳴った。
「変態、変態、変態、変態、ド変態。女たらし。変質者。デバ亀。スケベ。ヒヒじじい。すけこまし。すっとこどっこい!!!」
 心底、自分のボキャブラリーの貧困さが我ながら情けない。
 しかし、ここでおとなしくされるままになっているのも業腹だった。
 自分よりも、この神父が一枚上手なのは確かだ。
 そのことがいっそう、杏珠を苛つかせる。
「あんたなんて……大っ嫌い」
 余裕のあった神父の形のよい茶金の眉がぴくりと、動いた。



「変態か。……5度、言ったな」
 杏珠の身体を二つ折りにしたまま、その上からのしかかるようにして神父は言った。
「し、ししし、知らないっ!」
 かなり苦しい体勢で応える。
 まさか、律儀に数えていたとは。
 冷静に考えれば、いやらしいというより、かなり素っ頓狂な格好に違いない。
 時間がたてばたつほど羞恥心より、腰や背骨の痛みの方が大きくなってくる。
 その上、神父の吐息や長い髪が敏感な部分にかかるので、妙な気分になるのを必死で耐えなければならない。
「その言葉には、変態性欲のほかに姿を変えるという言う意味もあるのだが……お前が父と呼んだあのころから、それほど姿を変えてはおらんぞ」
 神父の言葉がすぐには判らなかった。
 古風な言い回しをするが、はっきりとした日本語のはずだ。
 彼は間違った日本語を覚えてしまったのだろうか。それともただの天然なのか。
 この口調に関して言えば、おそらく時代劇の見すぎだろう。
 そういえば、ローマ教皇のことをイタリア人は“パパ”とか呼んでいた。もしかしたら司祭も同じなのかもしれない。



「…………パ、」
「パパではない」
 杏珠の言いかけたことを先取りして、彼は大腿の内側へくちづけをした。
 それだけで、背筋がぞくぞくっと総毛立つ。
「やっ、やだって!」
 猛然と抵抗をするが、神父の力にはまるで歯が立たない。大人に子供が挑むようなものだ。
 少しでも落ち着こうとしていた努力など虚しいものだと思い知らされる。
 ざらりとした舌が、ゆっくりと中心へくる。
 苦しいとか、痛いなどという余裕さえなくなってきた。このまま流されてしまいそうな恐怖に震え上がる。
「……ご、ごご、ごめんなさい。もう言わないから、パパなんて言わないから、ゆ、許し……ひぃあっ!!」
 自身の意思とは裏腹に、言葉は甲高い悲鳴になる。
 茂みを縁どるように指先が嬲り、さらに奥へと進む。柔らかい部分が押し広げられ粘着質な音が聞こえた。
 外気が当たったせいだろう。ひんやりとした錯覚がある。
 それでいて体は一気に熱くなった。
 敏感な突起を強く指先が擦ったのだ。
 笛が鳴るような声が咽喉からもれる。

「何を許せと? よくはないのか。テレイシアスの言葉が本当だと教えてやっているだけだぞ」
「やっ、やだっ。いらない。知らなくていいからっ!」
「そう言うな。女の感度は男の10倍だ」
「嘘っ!!」
「嘘ではない。見てみろ。充血して膨らんできただろう」
 見られている恥ずかしさよりも、たまらない刺激がきた。
「くっ、ぁあっ!」
 腰から背筋にかけて、まるで電流でも流されているかのような痺れが走った。びくんびくんと体が痙攣する。
 狂ったように頭を振った。
 声を出すまいと、唇を噛む。無理に堪えようとして、咽喉が鳴る。
 なんなの。この感覚。怖いような、なんかこの先を知りたいような……。いやいやいや。だからダメだってば、流されてる。流されてる場合じゃないのに。

「我慢するな。ここは6000以上の神経繊維があるからな。どうだ」
 神父の声には、まったく乱れたところがない。
 冷静すぎる彼の目に映る自分を考えると恐ろしかった。
 もはや矜持などない。
 絡み付く熱が触れられた部分から、身体の奥深くに染み入る。
 神父の舌が、指が、より深く杏珠の無防備にさらけ出された内側に沈む。
 四肢が痙攣して、自分のものとも思えないような、恥ずかしい声が立て続けに上がる。
 彼は何度も角度を変え、深いくちづけを繰り返す。
 甘い痺れがいっそう大きくなり、杏珠はもはや声を上げる事も辛くなってきた。
 唇をぎゅっと噛みながら耐えるが、もう限界も近い。



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